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n - caramelizing

日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

scarecrow in scarecrowman

2009.04.09 (Thu) 21:15 Category : 未選択

小話メモ。書き散らし。
基本はスケアクロウマン。
多ジャンルと絡めてパラレルにするつもり。その時はブログには出さないけど。
都合上おじいさんがおじさんになってます。


*

 その子はいつも走ってやって来る。畑の向こうから一息に走って来ると、決まって僕に抱きつくように寄りかかって、息を整えた。僕はそれが何だか恥ずかしくて、その時だけは僕の顔が下を向いていなくて良かったと思う。
 その子はいつも僕の足元に座って麦畑を眺めていた。僕は喋れないし、動けないけれど、仲間ができたようで嬉しかった。僕はいつも畑で一人ぼっちだったから、本当に嬉しかったんだ。僕はその子が来るのを待つようになった。
 春が過ぎて強い日差しが照るようになっても、その子はほとんど毎日麦畑に来ていた。おじさんが来ている時は、畑の仕事を手伝っていた。よく働くと、おじさんが褒めていた。
 夏の終わりから、畑の色が変わっていった。まだ緑の麦が残る頃、カラスさえ居なくなった夕暮れ時に、その子はいつものように走ってやって来た。
 息を切らせて、僕に持たれ掛かって。でもいつもと違ったのは、その子はわんわん泣いていた。
 僕はどうしていいか分からなくて、たとえ分かっても何もできなくて、ただ突っ立っていた。
 どうして、僕は動けないのだろう。
 どうして、僕は喋れないのだろう。
 僕が動けたなら、手を伸ばせるのに。いつかおじさんがしていたように、頭を撫でてあげられるのに。手を握ることも、涙を拭うこともできるのに。
 せめて喋れたら、どうしたの、って話を聞けるのに。
 何もできない僕は、色が変わってゆく空を見ていた。ピンクがかっていた空はすぐに群青に変わり、星が瞬いた。その日、その子はなかなか帰らずに、麦畑が闇に融けてしまうまで、ずっとそこに居た。
 それから何日か、その子は麦畑に来なかった。その間、僕はその子が心配で、だから来てくれた時は嬉しかった。
 いつも通り走ってきたその子は、僕の前で立ち止まって、顔を上げた。なんだかいつもと違う雰囲気で、そういえば服装もいつもと違った。いつもは明るい色のTシャツを着ているのに、今日は上下黒の服で格好よかった。
 今日は、なにか特別な日なのかも知れない。僕もそんな服を着てみたいと思った。
「ぼく、引っ越すことになったんだ」
 その子は言った。
 引っ越す、の意味が僕は分からなかった。
「ここにも来れなくなるんだ」
 そう言ったから、何となく意味が分かった。もう会えなくなるのだろう。
 それからその子は僕に近づいて、何かをしていた。
「ぼくの宝物、預かっていて。いつか・・・大人になったら、また来るから・・・それまで、預かっていてね」
 その子はしばらく僕を見ていたけれど、来た時と同じように走って去って行った。
 預かっていてと言われた物は、一体どこにあるのか、僕からは見えなかった。でも、彼が預かってと言うのだから、僕は大切に預かることにした。
 大人になって、また来てくれるまで。
 けれどその日から僕が麦畑を離れるまで、ついにその子は訪れなかった。

*


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