n - caramelizing
日記です。
読み捨てて頂ければ幸い。
火影室へようこそ(仮)3
2017.08.11 (Fri) 00:54 | Category : 小話
もっとさくさく書き進めるつもりだったのに、全然進まないです。
*
忙しくしているうちにその日はあっと言う間に訪れ、カカシが正式に六代目火影を就任した。同時に五代目火影から火影室が明け渡される。
この日からイルカは暫くアカデミーの仕事を離れ、火影の執務補佐に専念する事になった。火影が代変わりした直後はいつも忙しくなるのでアカデミーと兼業では大変だろうと、カカシがそう融通してくれたのだった。アカデミーにはイルカの代わりに人を入れてくれたらしい。
「火影様、六代目就任おめでとうございます。改めて、これからよろしくお願いします」
就任式を終えてから、イルカは火影室でカカシにそう挨拶した。カカシは書斎机の椅子に座って、イルカに照れくさそうな笑みを返した。
「こちらこそ、よろしく」
何故かお互い見つめ合い、恥ずかしくなってはにかんだ。
イルカは、カカシとこうして火影室に居るのが不思議な感じだった。尊敬する先代の火影たちが座っていた椅子にカカシが座っている。
「なんだか変な感じ」
カカシがそう言って頭を掻きながら部屋を見渡した。
三代目や五代目の火影然とした姿を思い出すと、目の前の火影になりたてのカカシは少し頼りなかった。でもこれと言って不安は無かった。どんな人物か全く知らなかった綱手の五代目火影就任の時の方が、皆どこか不安に思っていたと思う。
「どうですか?火影になった感想は」
イルカがどこか居心地の悪そうなカカシを見てくすくす笑うと、カカシはイルカにじっと目を向けた。
「俺のこと頼りない火影だなあって、思ったでしょ?」
図星を突かれて思わず黙ったイルカを見て、カカシは笑った。
「・・・ま、みんなに認めてもらえるよう頑張ります」
「・・・俺も頑張ります、火影様」
イルカはそう口にしていた。そんなに変なことは言ってないと自分では思ったが、カカシがじっと見つめるのでイルカは少し恥ずかしくなった。
「ありがとう。一緒に頑張りましょ、イルカ先生」
カカシがにこりと笑う。イルカも笑みを返した。やっぱり不安は無かった。きっとカカシも歴代火影と同じように慕われる火影になってくれるだろう。
「では火影様、早速ですが」
イルカは手に持っていたレターケースをカカシの前に置いた。ケースの中には書状の束が入っていた。
「各国各里から祝辞が届いています。後で目を通しておいてください。お礼状の用意、しておきますね」
「うん、ありがとう」
カカシはレターケースに手を伸ばして書状を一つ取り上げ、ひっくり返したりして眺めた。特に中を読む気は今は無いらしい。
「業務を始める前に事務方含めて顔合わせをしておきたいんですが・・・シカマルがまだ来ませんね」
「初日からサボりかな?」
いい天気だしねえ、とカカシが窓を振り返って眺める。水色の空に白い千切れ雲が流れていく。
イルカはアカデミーの頃の、よく木陰で寝ていたシカマル少年の姿を思い出した。
「えっ・・・まさか、さすがにそれは」
アカデミーの頃のシカマルを知っているイルカとしては、冗談では済まない。
カカシは怒るでもなく笑った。
「まぁ、顔はみんな知ってるし。シカマルが来たら改めて顔合わせしましょ」
「はい」
イルカは頷くと、書斎机の前を離れて部屋の扉を開けた。示し合わせたように、二人の事務員が山のような書類を抱えて火影室に入って来る。カカシが何事かと目を丸くしていた。
イルカはカカシの方を向くと、にっこり笑ってみせた。
「では早速、六代目火影の執務を開始しましょう。忙しくなりますよ」
事務員がカカシの目の前に書類の山をドンと置いた。広かった書斎机が途端に書類の山で埋められる。
カカシは緩い笑顔を作っていたが、若干固まっていた。
それから二週間ほどは、火影の机から書類の山が消える事はなかった。処理した分だけまた新たに書類が回ってくるのだから終わるはずがない。
そもそも火影が目を通さなければならない書類が多過ぎること、カカシが慣れない書類仕事の要領をまだ掴んでないこと、時期的に忙しいことが原因だった。
カカシも書類だけ見ていればいい訳でもなく、会議や会談、視察にも行かなくてはならない。任務受付に顔を出す事もある。何か問題が起こればその対応もしなければならない。身一つでは本当に足りないが、影分身を使う訳にもいかない。
イルカは申し訳ないと思いつつも、カカシの机に書類を増やした。
「六代目、急ぎの書類です・・・決裁お願いします」
カカシは書類を手に取ると、どこか恨めしそうにイルカを見上げた。イルカは少しだけ苦笑いをした。
カカシはすっかり書類の山に囲まれていた。イルカが少し火影室を離れている間に、机に積まれている書類の山が更に高くなったようだ。
カカシは書類にざっと目を通して火影の判子を捺し、それをイルカに返した。
「ありがとうございます。お茶淹れてきますね」
イルカは決裁を貰ったばかりの書類をすぐに処理に回すと、今度はカカシの元にお茶を持って行った。
「どうぞ、六代目」
「ありがと、イルカ先生」
カカシは仕事を中断して、湯飲みを受け取った。ところがカカシはお茶には口を付けず、傍らに立ったイルカをじっと見ている。
「・・・?どうかしましたか、六代目?」
イルカが問いかけると、カカシは困ったように眉を顰めた。
「その・・・六代目っていうの、やめてくれない?」
カカシがそんな事を言い出したので、イルカは驚いた。
カカシとは就任式前にも同じやり取りをしていた。その時は、まだ正式に六代目火影に就任していないから六代目と呼んで欲しくない、という話だった。
しかし今はもう就任式も終え、カカシは正式に六代目火影を名乗っている。
「どうしてですか?就任式も終わったし、もうちゃんと六代目じゃないですか」
「そうなんだけどさ」
カカシは眉を顰めた。
「なんていうか、慣れないし、気になって仕事にならないというか・・・。二人の時はやめません?」
イルカはカカシの提案にきょとんとした。
「じゃあ、なんて呼ぶんですか?『火影様』?」
「それだとあんまり変わらないです・・・今まで通り『カカシさん』は?」
だめ?とカカシが遠慮がちに訊く。子供のようだなと思ってイルカはくすりと笑った。
「わかりました、カカシさん。その方が仕事しやすいなら・・・。でも六代目火影と呼ばれるのに慣れてくれなきゃ困ります」
イルカは窘めるように言った。カカシが苦笑する。
「分かってます。イルカ先生」
イルカ先生、といつものように呼ばれて、イルカはカカシをじっと見た。言うなら今しかないと思い、ゴホンと咳払いをして口を開いた。
「・・・あの、カカシさん。俺も呼び方のことで言いたいのですが」
「なに?」
「人前でイルカ先生って呼ぶの、やめてください」
「えっ」
カカシは驚いた顔をした。
「アカデミーでもないのに変でしょう?火影なんですから、年下の俺なんて呼び捨てにしてください」
「えー」
「えーじゃなくて。火影が部下に向かって甘ったるい呼び方しないでください。示しがつきません」
イルカは厳しく言った。
火影の就任式が終わってからずっと思っていたのだ。上忍とアカデミー教諭だったらそれでも良かったが、今はもう六代目火影と中忍だ。アカデミー内ならいざ知らず、アカデミーの仕事を離れている時に、人前で六代目火影のカカシからイルカ先生と呼ばれるのは無性に恥ずかしく居た堪れなかった。
「イルカ先生って呼び方好きなのに・・・」
カカシは拗ねたように言った。
「好きとか嫌いじゃなくてケジメの問題です」
「わかりました・・・イルカ。これでいい?」
カカシは渋々といった風にそう口にした。カカシに呼び捨てにされたのは初めてだった。そう呼ぶよう言い出したのは自分なのに、少しこそばゆく、イルカはちょっとだけ照れた。
カカシもどこか照れくさそうに顔を向こうに向けている。
「あー、やっぱり慣れないです」
「ふ、二人の時は今まで通りでいいです・・・」
「ほんと?イルカ先生」
カカシは、パッとイルカに顔を向けた。イルカが見つめ返す。
「・・・はい。カカシさん」
二人は黙って見つめ合っていたが、突然表情を崩して笑い出した。
特別今までと呼び方が変わった訳でもないのに、何故だか少し親しくなったような気がした。
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