n - caramelizing
日記です。
読み捨てて頂ければ幸い。
パロディ:スケアクロウマン
2018.05.23 (Wed) 16:00 | Category : 小話
拍手御礼に置いていた小話を一部放出。
スケアクロウマンのパロディです。スケアクロウマン⇒カカシ、おじいさん⇒サクモさんで。
ところでスケアクロウマン知ってる人居たのかな;
スケアクロウマンのパロディです。スケアクロウマン⇒カカシ、おじいさん⇒サクモさんで。
ところでスケアクロウマン知ってる人居たのかな;
*
(1)
イルカは息を切らせて畑の真ん中まで行くと、背の高い案山子の前で止まった。案山子の顔は、大きな帽子と逆光の所為で陰っていた。相変わらず真っ直ぐ畑の向こうを見ている。
その視線の先を目で追ってから、イルカは案山子の足元に座り込んだ。初めてこの畑に来てから、ここがイルカの特等席だった。両側は麦畑に挟まれている。麦はまだ緑色だったが、座ったイルカの姿をすっかり隠していた。
イルカはしばらく何も考えずに麦畑の中に座っていた。風が麦畑の表面を揺らし、イルカの前髪を乱した。麦になれたらいいのに、と思う。麦には学校とか友達とか、面倒くさいことが無いのだから。
「なんだ、また苛められたのか?」
急に声を掛けられて、イルカは吃驚した。思わず背中の案山子を振り返る。案山子が喋ったのかと思ったが、その向こうに男が立っていた。この畑で麦を作っているおじさんだった。
「違うよ。今日はまだ苛められてない」
「はは、そうか。そりゃ悪かったなあ」
彼は笑いながら麦わら帽子を脱いで、それで顔を扇いだ。日に焼けた顔は、男らしくて格好良かった。
イルカは立ち上がると尻の泥を払った。
「手伝うよ」
「いつもありがとう」
彼は自分の麦わら帽子をイルカに被せた。おじさんの帽子はイルカには大きくて、前が見えなくなる。
「使いな」
「ありがとう。でも、おじさんはどうするの?」
イルカは帽子の位置を直しながら聞いた。
「今持ってくるから大丈夫だ。終わったらおやつにしよう。食べるだろう?」
「うん」
おやつと聞いて、イルカはにっこり笑った。おじさんの家のお菓子は、いつもおいしかった。
「すぐ戻るよ」
おじさんは小屋の方へ歩いて行った。イルカは傍の案山子を見上げて、おそろいだと笑った。案山子の麦わら帽子が風で揺れた。
暫くするとおじさんは帽子を被って戻って来た。イルカはおじさんの畑仕事を手伝った。学校よりずっと楽しかった。学校にはいじめっ子たちが居たが、ここには居ないし、代わりに優しいおじさんと無口な案山子が居た。それに働いている間は嫌なことは忘れた。働くことがこんなに良いのなら、早く大人になりたいとイルカは思った。
一仕事を終えてから、二人は畑の脇の木陰で休憩した。
「たまには友達と遊んできたらどうだ?」
おじさんが言った。イルカはカップケーキに齧りつきながら答えた。
「いいの。こっちの方が楽しいもん。お菓子もらえるし」
「はは、そうか。まぁ、俺は手伝って貰ってるし、イルカが来てくれて楽しいから良いんだけど」
「ほんと!?じゃあ明日も来るね!」
イルカが喜んで言うと、おじさんは苦笑した。宿題くらいはちゃんとやれよ、たまには友達と遊べよ、とおじさんは言った。
本当は遊ぶ友達がいないとは、イルカは言えなかった。この町に引っ越して来たばかりのイルカは、苛められっ子たちに目を付けられてから友達を作る切欠を失っていた。
「おじさんちは子供いないの?友達になるのに」
「残念だったな。うちの子はそこの案山子だけだよ」
「なんだ、そうかぁ。じゃあ案山子の友達になってあげる」
おじさんには冗談に聞こえたかもしれない。でも友達という響きが、イルカには魅力的だった。
案山子を見ると、さっきまで被っていた帽子が無くなっていた。風で飛んで行ったらしく、帽子は向こうの麦畑の海で漂っていた。イルカは慌てて立ち上がると、畦道を走って案山子の下へ行った。イルカは自分が被っていた麦わら帽子を背の高い案山子に被せ、今度は飛んで行った帽子を取りに行く。風に遊ばれながら飛んでいく帽子を追いかける。なんとか捕まえると、イルカはそれを自分で被った。雨晒しになって白茶けた帽子は、イルカには少し大きかった。
2009/9/26 初出(ブログ)、2015/9/2 加筆(拍手御礼)
*(2)
その子はいつも走ってやって来る。畑の向こうから一息に走って来ると、決まって僕に抱きつくように寄りかかって、息を整えた。僕はそれが何だか恥ずかしくて、その時だけは僕の顔が下を向いていなくて良かったと思う。
その子はいつも僕の足元に座って麦畑を眺めていた。僕は喋れないし、動けないけれど、仲間ができたようで嬉しかった。僕はいつも畑で一人ぼっちだったから、本当に嬉しかった。僕は彼が来るのを待つようになった。
春が過ぎて強い日差しが照るようになっても、その子はほとんど毎日麦畑に来ていた。おじさんが来ている時は、畑の仕事を手伝っていた。よく働くと、おじさんが褒めていた。
夏の終わりから、畑の色が変わっていった。まだ緑の麦が残る頃、カラスさえ居なくなった夕暮れ時に、その子はいつものように走ってやって来た。
息を切らせて、僕に持たれ掛かって。でもいつもと違ったのは、その子はわんわん泣いていた。
僕はどうしていいか分からなくて、たとえ分かっても何もできなくて、ただ突っ立っていた。
どうして、僕は動けないのだろう。
どうして、僕は喋れないのだろう。
僕が動けたなら、手を伸ばせるのに。いつかおじさんがしていたように、頭を撫でてあげられるのに。手を握ることも、涙を拭うこともできるのに。
せめて喋れたら、どうしたの、って話を聞けるのに。
何もできない僕は、色が変わってゆく空を見ていた。ピンクがかっていた空はすぐに群青に変わり、星が瞬いた。その日その子はなかなか帰らずに、麦畑が闇にとけてしまうまでずっとそこに居た。
それから何日か、その子は麦畑に来なかった。その間、僕は彼が心配で、だから来てくれた時は嬉しかった。
いつも通り走ってきたその子は、僕の前で立ち止まって、顔を上げた。なんだかいつもと違う雰囲気で、そういえば服装もいつもと違った。いつもは明るい色のTシャツを着ているのに、今日は上下黒の服で格好よかった。
今日は、なにか特別な日なのかも知れない。僕もそんな服を着てみたいと思った。
「引っ越すことになったんだ」
その子は言った。
引っ越す、の意味が僕は分からなかった。
「ここにも来れなくなるんだ」
そう言ったから、何となく意味が分かった。もう会えなくなるのだろう。
それからその子は僕に近づいて、何かをした。
「ぼくの宝物、預かっていて。いつか・・・大人になったら、また来るから・・・それまで、預かっていてね」
その子はしばらく僕を見ていたけれど、来た時と同じように走って去って行った。
預かっていてと言われた物は、一体どこにあるのか、僕からは見えなかった。でも、彼が預かってと言うのだから、僕は大切に預かることにした。
大人になって、また来てくれるまで。
けれどその日から僕が麦畑を離れるまで、ついにその子は訪れなかった。
2009/04/09 初出(ブログ)、2015/9/2 加筆(拍手御礼)
*(3)
景色は昔と変わりなかった。
広い空。麦の海。林の向こうを汽車が通る。緑色の麦畑に、ぽつんと佇む案山子。
ただ、案山子はへんてこなのに変わっていた。サーカスのような格好をしている。
どうやら昔いた案山子は無くなってしまったらしい。あのおじさんも居なかった。引っ越したのか、別の人が畑の手入れをしていた。
それでも昔よく訪れた麦畑は懐かしくて、暫く眺めていた。風が吹いて、麦畑が波のようにうねる。変わらない安心感と、変わってしまった寂しさがない交ぜになって静かに押し寄せていた。
「麦畑が好きなんですか?」
不意に声を掛けられて、イルカは振り向いた。馴らしただけの畦道に、大きな荷台をくっつけた自転車が止まっていた。それに跨るのは、広つばの帽子を被った男。
イルカは、その男の姿を見るなり吃驚して、口を開けたまま目を逸らすことができなかった。
赤と白のボーダーニットに、黒い皮のパンツ。スタッズベルトにブーツ。てっぺんが破けた黒い帽子を被っていた。
ふた昔前に流行ったようなそのパンクファッションは、忘れもしない、あの案山子にそっくりだった。
「さっきここを通った時も、畑を見ていたから。僕も好きなんです、麦畑」
黒い帽子の男は、にこにこ笑いながら言った。顔もあの案山子に似ている気がした。
どうやらイルカは、長いこと同じ場所でぼーっとしていたらしい。そう言えば随分前に、この道を自転車が通って行った気がする。
「でももうすぐ雨が降りそうだから、早く帰った方がいいですよ」
案山子に似た男は親切にそう言って、自転車を漕ぎ出そうとした。雨が降りそうと言うが、空は晴れていて雨の気配はない。
「あの!」
イルカは慌てて声を掛けた。
動き出した自転車はすぐに止まった。振り返った案山子似の男は、帽子のつばをちょっと上げてイルカを見つめた。
「はい。なんでしょう?」
やはり、あの案山子に似ていると思った。でも、だから何だと言うのだ。似ているだけに決まっているし、似ていますねと言える訳がない。
「・・・いえ、すみません。知っている人に似ていたものですから」
「そうですか」
男は気にした風でもなく、屈託なく笑った。
「あの・・・ここの案山子、昔と変わりましたよね?」
「え?ええ・・・」
「なくなっちゃったんですね」
口にすると、ひどく寂しかった。おじさんも居ない。あの日、案山子に預けた物も無くなってしまったのか。
「残念だなあ」
「・・・・・・」
男が困った様子で立っていたので、イルカは笑ってみせた。
「すみません。昔、この畑にいた案山子に、自分の宝物を預けたんです。子供だったから、ずっとここにあるものだと思ってて」
今でもどこかでそう思っていた。この畑はここにあって、あの案山子は今も畑に立っていると。
「大人になったら取りに来るつもりで・・・」
それが案山子との約束だったとは恥ずかしくて言えなかった。見知らぬ人に何を話しているのだろう。
男はやはり困った顔をしていたが、ぱっと顔を明るくした。
「あの時の・・・」
と、男が呟いた。
「イルカ・・・さん、ですね」
「!どうしてオレの名前を・・・」
案山子似の男は、ごそごそとポケットを探ると、手をイルカに差し出した。掌に乗っていたのは、古びた金色の懐中時計だった。
それはいつか案山子に預けた、イルカの宝物だった。壊れていたけれど、宝物だったのだ。
「うそだ。オレの・・・?どうして貴方が・・・」
確かにイルカの懐中時計だった。あの案山子から取ったのだろうか。でもイルカの名前を知っているはずがない。
「預かっていました。ずっと」
もしかして、畑のおじさんが見つけて持っていてくれたのかも知れない。それを、この人が預かっていたのだろう。きっとそうだ。
イルカは懐中時計の蓋を開けてみた。壊れていると思っていたが、時計の秒針は動いていた。時間は合っている。
「動いてる・・・」
「直しておきました」
「あなたが?」
「直すのが、オレの仕事ですから」
照れくさそうに、でも誇らしげに、案山子似の男は言った。よく見ると、あのおじさんにも似ている気がした。
「どうもありがとうございます」
嬉しかったから、イルカは丁寧に頭を下げた。男は大したことじゃないと言って笑った。笑うと余計にあの案山子に似ていた。
ぽつり、と雨が落ちてきた。いつの間にか空は曇っていた。夕立だろうか。しばらく木の下で雨宿りでもすればいいかと思っていると、男は台車から傘を取り出して広げた。それをイルカに差し出す。
ピンク色の傘だった。
「街まで行くんですか?」
「ええ・・・」
「じゃあ、一緒に行きましょう。しばらくやみませんよ」
イルカはその言葉に甘えて、ピンクの傘の下に入った。彼は自転車を押していたから、イルカが傘を持つ。
「オレ、街のお店で働いているんです。色々作ったり、直したりしてます」
スケアクロウマンズショップという雑貨屋らしい。案山子似の彼にぴったりの名前だった。イルカはその店に行ってみたくなった。昔はそんな雑貨屋は無かったし、これからこの街に住むのなら見ておいて損はない。
「オレも行っていいですか?」
「もちろんです!みんな喜びます」
店には彼の他にも人が居るようだった。彼は楽しそうに店の話をしてくれた。話を聞く限り、にぎやかそうだ。
「そうだ、名前・・・まだ聞いてませんでした。オレはイルカです」
イルカは改めて名乗った。
「オレは・・・カカシ・・・です」
少し恥ずかしそうに、案山子に似た彼は答えた。
2010/8/18 初出(ブログ)、2015/9/2 加筆(拍手御礼)
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