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日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

二人忍

2018.06.03 (Sun) 23:31 Category : 小話

土井先生と利子さんの話。
ところで、ところてんが一般に広まったのは江戸時代らしい。

*

 半助は一人で小さな街道を歩いていた。出張で遠出し、その帰りだった。
 忍術学校は夏休みの時期だった。学園長に報告は必要だが、急ぐ旅でもない。きり丸の事はやや心配だが、今頃たくましく銭儲けしている事だろう。
 それでも寄り道するよりは早く帰りたいと思っていると、木陰で娘がところてんを売っていた。これはいいと思い、半助は汗ばむ額を拭って立ち止まった。これくらいの寄り道は構わないだろう。
「ひとつ貰えるかい」
「はい、ただいま」
 涼やかな声が返って来て、半助は思わずところてん売りの娘を見つめた。知っている人物だったのだ。娘も半助を見つめ返して、にこりと微笑む。
「りきちく・・・」
 半助がそう口にした途端、娘が一瞬目元を鋭くした。差し出したところてんの椀を、半助の手にぶつけてひっくり返す。
 細長いところてんとたれが半助の袖に降りかかった。
「まあ!ごめんなさい!」
 娘は帯に挟んでいた手拭いを引っ張って取ると、すぐに半助に取り付いて袖を拭いた。
「申し訳ありません・・・」
 娘は泣きそうになりながら半助の袖を拭いている。
 知り合いと思ったが人違いだったか、と半助は娘を観察しながら思った。しかしよく似ている・・・半助の恋人に。
 娘が不意に顔を上げ、潤んだ目で不安そうに半助を見つめた。半助は思わずどぎまぎした。
「あ、いや、大丈夫だから・・・」
「洗わないと・・・私のうちへいらして下さい」
「えっ?いえいえ、そんな、本当に気にしなくて大丈夫ですから」
 半助が遠慮すると、娘は半助の汚れた袖をぎゅっと握った。
「そんな!お詫びさせて下さい!」
 娘が必死に半助に詰め寄る。半助は戸惑った。
「しかし・・・君、お店が」
 半助がそう言った時、旅の二人連れが来てところてんを二杯注文した。
 娘は半助から慌てて離れると、ところてんを二杯分取り分けた。それでところてんは売り切れとなったようだ。
「これで店じまいですわ」
 娘は客の二人が食べ終わるのを待たずに、店じまいを始める。すぐに食べ終わった二人から椀と箸を受け取ると、茣蓙を丸め、商売道具をまとめて担いだ。
「お待たせしました。行きましょう。ああ、私の名前は『利子』と申します」
 娘が自分の名前を必要以上に強調して言い、にこっと笑った。
 半助は微かに表情を引きつらせた。
 他人のふりをしているから似ているだけかと思ったが、やっぱり利子ーー利吉本人だった。歴とした男だが、女装した時は利子と名乗っていた。
 半助がうっかり彼女を『利吉』と呼んだものだから、その仕返しにこんな小芝居をしたのだろう。
 半助は呆れながら、恋人の小芝居に付き合って自分も名乗った。利子は楽しそうに「半助さん」と名前を呼んだ。

 利子は街道を逸れて藪の中に入って行った。一応道らしきものが出来ているが、こんな所に人が住んでいるとは思わない。
「利子さん。さっきのは仕事かい?」
 半助は歩きながら訊ねた。利吉がわざわざ女性に変装して辻売りをしているのだから、忍者の仕事だろう。
「ええ。この辺の城で動きがあるらしくて」
 周辺を調査しているらしかった。利子は忍務について詳しく話さなかった。半助も分かっているのでそれ以上訊かない。
「半助さんは?どうしてここに?」
「出張だよ。信州の方まで行って来てね、帰る途中なんだ」
「まあ。それはご苦労様でした。忍術学園は今夏休みですよね?」
 父親が忍術学園の教師なので、利子もその辺の事情はよく分かっていた。
「は組の補習が少しで終わったと思ったら急に学園長に言われて・・・休む暇も無いよ」
 半助がぼやくと、利子は口元を袖で隠して可愛らしく笑った。
「ふふ・・・。でも、そのお陰で半助さんとここで会えて、私は嬉しいです」
「利子さん・・・。私も、いい所に通りかかったと思ったよ」
 半助がそう応えると、利子が目を丸くして頬を赤らめた。立ち止まって半助と向かい合う。半助を見つめる目は、熱を帯びて輝いていた。
「半助さん」
「・・・ところてんは食べ損ねちゃったけどね」
 半助が照れくさくなって冗談ぽく言うと、利子は笑いながら半助の汚れた袖を摘んだ。
「それはすみませんでした。ところてんはありませんが、うちでゆっくり休んで行って下さい。その間に着物洗いますね」
 利子は半助に笑いかけると、袖を引っ張って木立の先を指差した。茅葺きの小さな家がぽつんと立っている。
「あそこです、私の家」
「こんな所に一人で?怪しまれないかい?」
 半助は辺りを見回した。集落からは離れているようだ。
「ここから見えないですが、集落は向こうを下った所にあるんです。女一人では流石に怪しまれるので・・・夫が町に出稼ぎに行ってるって事になってます」
 利子はそう言って、ちらりと半助の顔を見た。半助は困って項を掻いた。
「それは・・・その夫というのは私の事でいいのかな?」
「はい」
 利子が嬉しそうに頷く。その表情を見て半助も嬉しくなり、彼女の体を引き寄せて頬を触れ合わせた。
「じゃあ、ただいま。利子さん」
 半助の腕の中で、利子がくすぐったそうに笑う。
「おかえりなさい、半助さん」
 利子は半助の胸に体を寄せた。利子の唇が半助の頬に触れる。
 半助は腕の中の彼女の事が愛おしくなって抱きしめた。利子の唇に自分の唇を押し当てる。
「ん・・・半助さん」
「利子さん」
 睦言のように互いを呼び合う。
 周囲に誰も居ないのをいい事に、二人は暫く体を寄せ合っていた。

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