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n - caramelizing

日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

誕生日の夜が明けるまで

2020.05.28 (Thu) 00:02 Category : 小話

イル誕小話、なんとか書きました。間に合ってないけど。
あとでサイトに移します。仔カカイルでも書きたいんですよねえ。



*

 夕方、イルカは任務受付所から火影室へ書類をひと抱え持って行った。
 事務仕事の多いイルカはよく火影の元へ書類を運んでいるが、今週はいつもより量が多かった。今持っているのだって、なかなか量がある。ただでさえ書類が山積みの火影の書斎机に、この書類の束を積まなければいけないのは少々心苦しかった。
 特に今日はあまり仕事を増やしたくないのだが、仕事は仕事だし、そういう訳にもいかない。
 イルカが火影室に入って行くと、書斎机に向かって仕事をしていたカカシが顔を上げた。イルカを見て表情が和らぐ。
「イルカ先生!」
「お疲れ様です、カカシさん」
 イルカもカカシに笑顔を向けた。お互いに視線を交わして微笑む。
 ところがイルカが机に書類を積むと、カカシの表情があからさまに曇った。
 イルカは何も言うことができず苦笑いした。
「はー。今日はイルカ先生の誕生日だよ? なんなの、この量?」
「なんかすみません」
 今し方更に仕事を増やしてしまったイルカは、苦笑いしながら謝った。
「今日は絶対イルカ先生の家行くから、待っててくださいね」
 カカシが意気込む。嬉しかったが、別に無理はしなくてもとイルカは思っていた。何も今日じゃなくたって構わないし、時間のある時にゆっくり過ごす方がいい。
(まあ、そんな時間いつできるか分からないか)
 イルカはカカシと書斎机の上を眺めて小さく息を吐いた。
「じゃあ、楽しみに待ってますね」
「うん」
 カカシが子供のように頷く。それが可愛く見えてしまって、イルカはにやけそうになった。それを笑顔で隠しながら、書斎机の書類の山に手を伸ばす。
「少し手伝いましょうか?」
「大丈夫ですよ。誕生日なんだから、早く帰ってゆっくりしてください」
 やんわり断られてしまったが、イルカは誕生日だからこそ少しでもカカシの傍に居たいと思っていた。火影であるカカシは年中忙しいので、イルカが一緒に過ごせる時間も限られていた。
 とは言え、幾ら誕生日とは言え我が侭を言って仕事の邪魔をする訳にもいかないし、イルカは大人しく引き下がった。
「わかりました。じゃあ……」
 またあとで、と言おうとしてイルカは言葉を飲み込んだ。書類に目を通していたカカシが、どうしたのかと顔を上げる。
「あの……時間って遅くなりそうですか? 俺、準備して待ってた方がいいですか? それとも一緒に……」
 イルカはそこまで言って恥ずかしくなった。カカシがぽかんとした顔でイルカを見ている。ますます恥ずかしくなった。
 カカシは席を立つと、書斎机の前へ出て来てイルカをそっと抱き寄せた。
「遅くなるかも知れないから、イルカ先生に任せるよ。でも、頑張って早く帰りますね」
 カカシがそう言って顔をすり寄せた。キスは夜までお預けらしい。イルカは少し残念に思いながら、カカシを抱きしめて敢えてマスクの上にキスをした。
「わかりました。それじゃあ、またあとで」
「うん」
 カカシが赤くなったイルカの頬を撫でる。イルカは顔が熱くなるのを感じて、カカシから離れて火影室を後にした。
 仕事を上がるついでに火影室に書類を持って来たので、あとは家に帰るだけだった。イルカが熱くなった頬を手でこすりながら歩いていると、後ろから誰かが追って来てイルカを呼び止めた。
 振り向くとそこには鼻ぺちゃの茶色い犬がちょこんと立っていた。カカシの忍犬だった。
「パックン。どうしたの」
「いっしょに居るようカカシに言われた」
 忍犬はそう答えて、イルカの腕に飛び込んだ。イルカはいきなり飛び掛かって来た忍犬を慌てて抱き留めた。
 カカシは火影になってから、たまにこうして忍犬を寄越した。お陰でイルカは彼の忍犬とはすっかり顔見知りになってしまった。チャクラの影響なのか忍犬は普通の犬より寿命が長いようで、彼らもまだまだ現役であった。ただ最近はイルカのお守りをする任務が多いようである。
(誕生日に一人で寂しくないようにってことかなあ……)
 イルカはカカシの気遣いに少し呆れながら、忍犬の頭を撫でた。撫でられて嫌だったのか忍犬が頭を振る。すると犬の小さな頭に着けられている額当ての下から、紙がはみ出していた。
「これは?」
 挟まっていた紙を引き抜くと、くすぐったかったのか忍犬はイルカの腕の中で転がって、後ろ足で耳の辺りを掻いた。
 紙はどこかのお店のチケットのようで『ケーキ予約票』と書かれていた。
「カカシからだ」
「誕生日のケーキ!」
 イルカはたまに食べるケーキが好きだったので、ぱっと笑顔になった。でもカカシは甘いものが好きではないらしく、一緒に食べても一口くらいしか食べない。今日はイルカ一人で食べることになりそうだ。
「一人でケーキ食べるのもなあ……」
「おれも食べるぞ」
 忍犬が当然のように言った。
「ダメだよ。そんなの食べさせたらカカシさんに怒られる」
 イルカは忍犬の食べ物については、カカシからうるさく言われていた。食べさせていい物、わるい物がしっかり決められている。人間の食べ物なんて以ての外だった。
「今日はいいって言われたぞ!」
「ええ~」
 イルカは忍犬が嘘を言っているのだと思って笑いながらケーキ屋へ向かった。いつも買ってるケーキ屋と違うお店で、見た目のかわいいケーキがたくさん並んでいた。
 予約票と引き換えに受け取ったケーキは、一人でも食べれそうな小さめのホールケーキと、小ぶりのカットケーキ一つだった。渡される前にこちらですねと商品を見せられてイルカは驚いた。
「二つですか?」
「こちらの小さいのがわんちゃん用です」
 店員の女性がニコニコしながら教えてくれた。店の外に犬を待たせているのが見えたのだろう。
 イルカはケーキの箱を袋に入れてもらい、それを持って店を出た。店の前で大人しく待っていた忍犬がイルカの足元に寄って来る。
「おまたせ。ちゃんとパックン用のケーキもあったよ」
 疑って悪かったとイルカが言うと、忍犬は得意げな顔をしていた。
「はやく帰ろう」
「あ、待って。少し買い物して行きたい」
 イルカがそう言うと忍犬はケーキどうすんだよと言いたげな目をしていたが、何も言わずに突然忍術を使った。イルカの目の前で煙幕が弾ける。次の瞬間そこに居たのは犬ではなく銀髪の少年だった。
 忍犬が変化の術を使って幼少期のカカシに化けていた。元が小型犬のため、大人に変化するよりは子供の姿の方が楽なようだ。
 少年姿の忍犬は、イルカに向かって小さな両手を出した。荷物を寄越せと言うことらしい。イルカはケーキ屋の袋を彼に渡して、少年の銀髪を撫でてやった。
「ありがとう。さあ、早く買い物を済ませて帰らないとな」
 イルカはカカシ少年を連れて、商店街で買い物をしてから家へと帰った。イルカは始終機嫌がよかった。忍犬の変化の術とはいえ、少年姿のカカシと一緒に居るのが嬉しかった。子供好きのイルカにとって、カカシ少年は可愛くて仕方なかった。
 家に着いても忍犬はしばらくカカシ少年の姿で居てくれて、食事の準備や部屋の片づけなど色々手伝ってくれた。そしてケーキを食べるのも少年姿だった。
 少年姿の忍犬は、犬用のケーキをがつがつと食べた。見た目と似合わない食べっぷりにイルカは笑った。
「おいしい?」
 カカシ少年がもぐもぐしながら頷く。イルカは笑いながら、クリームのついた口元を拭ってやった。イルカは自分のケーキより、忍犬が化けたカカシ少年を見ている方が楽しかった。
「カカシさん、何時に仕事終わるかな?」
「さあな」
 忍犬はそっけなく答えた。忍犬に訊いたところで分からないんだから仕方ない。
 イルカはしばらく少年姿の忍犬と本を読んだり遊んだりして過ごしていたが、忍犬がうとうとし始めると風呂を済ませて寝支度を始めた。イルカが風呂に入っている間に忍犬は犬の姿に戻って眠っていた。
 イルカはカカシが帰って来るまで待っているつもりだったが、カカシはなかなか帰って来なかった。日付が変わる頃になっても帰って来ない。イルカは時計を見て溜め息をついた。
「はあ。まだ帰って来ない……」
 ここまで遅いと何か問題が起きたのかも知れない。そうなると帰宅は絶望的だった。でも帰れないなら帰れないで連絡を寄越して来るはずだ。
 イルカはベッドに寄り掛かって、布団の上に頭を乗せた。そこで寝ていた忍犬の顔を眺める。忍犬は眠たそうに片目を開けた。
「カカシさんの様子見て来てくれない?」
 イルカが頼んでも、カカシの忍犬はぷいと顔を背けて目を閉じた。
「カカシにはイルカといっしょに居ろと言われている」
「うう……」
 彼はカカシの忍犬であり、カカシから命じられた任務を逸脱することは聞いてくれない。分かってはいたが、イルカは少し落ち込んだ。
「もう寝ろ。そのうち来る」
 忍犬はそう言ったが、動かないでいるイルカを見てのそりと立ち上がり、布団の上を歩いて枕側の掛け布団をめくった。
 イルカは渋々ベッドに入った。忍犬はイルカが横になったのを確認して、その傍らに寝そべった。子犬でも寝かしつけるようにイルカの顔を舐める。イルカは急に目蓋が重くなった。イルカは温かい忍犬の体を抱き寄せた。
「カカシさんが来たら教えて……」
「ああ、それなら」
 問題ないと言ったパックンの声が、言葉の途中で掻き消えた。同時にイルカの腕の中でいきなり煙幕が弾け、イルカは驚いて飛び起きた。腕の中には忍犬が居たはずだが、次の瞬間イルカの傍らに居たのは小型犬とは似つかない体格の人間の男だった。白煙の向こうに銀髪が見える。
「イルカ先生!」
「うわっ!?」
 イルカは相手に抱きつかれてベッドに押し倒された。イルカはベッドのヘッドボードに頭をぶつけてしまったが、お陰で眠気は吹っ飛んだ。
「カカシさん!?」
 頭の後ろにズキズキとした痛みを感じながら、イルカは圧し掛かって来る男の顔を確かめた。紛れもなくイルカの恋人であり六代目火影であるはたけカカシだった。忍犬の変化の術ではなく、本物の。
「カカシさん、どうやって……パックンは?」
 忍犬の姿は無くなっていた。目の前に居るのはカカシだけだ。
「俺と忍犬の位置を入れ替えたんです。吃驚した?」
 そういう忍術らしい。カカシはどこか楽しそうだった。この為にイルカに自分の忍犬を付き添わせていたのだろう。イルカは溜息をついていた。
「しました……普通に玄関から入って来てください」
「ごめん。早く帰りたかったから」
 イルカは少ししょんぼりしている恋人の頬に手を伸ばした。
「おかえりなさい。今日もお疲れさまでした」
「ふふ。ただいま」
 カカシはマスクを外すと、イルカの目元に口づけた。触れた唇が離れて閉じていた目を開けると、イルカはカカシを見つめた。やっとカカシとこうして触れ合えて、イルカは嬉しさよりも安堵を感じていた。
「今日はありがとうございました。ケーキと、パックンも」
「喜んでもらえたのならよかった」
 カカシは満足そうに微笑んだ。
「ま、これからがメインですけど……誕生日おめでとう、イルカ先生」
 カカシがそう言って顔を近づける。イルカは大人しくカカシの唇を受け入れた。穏やかで優しいキスが繰り返される。
 イルカはなんだかくすぐったくなって、キスをしながらくふっと笑った。
「くふふ。ありがとうございます。でも、ちょっとだけ遅刻ですよ、カカシさん」
「そこは見逃してよ」
「それはカカシさん次第です」
 イルカはうふふと笑いながら、カカシにキスをねだった。すぐに唇が重なって、互いの体に腕を回す。体が密着し、お互い待ちきれずにもぞもぞ動いた。僅かにベッドが軋む。
 ベッドサイドの時計は、深夜零時を少しだけ過ぎていた。
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