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日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

手もみ肩もみ

2020.08.16 (Sun) 18:19 Category : 小話

イルカ先生が肩もみしてくれる話。

*

 カカシは手にしていた万年筆を放り出すと、目の前でまだ山を作っている大量の書類を見て大きな溜め息を吐いた。一日中書類と格闘していたというのに、一向に山が減る様子は無い。近頃は夕方になると目が疲れるようになって来た。それに一日机に向かっていると肩が凝る。
 火影になる前は肩こりなんて無縁だったのになあ、と思いながら肩甲骨を動かしたり首を左右に傾けていると、火影室の扉がノックされた。訪れたのはイルカだった。
 カカシはちょうど両腕を上げて体を伸ばしていたところだった。それを目にしたイルカが少し笑いながら「お疲れさまです」と言った。
「イルカ先生。お疲れさま」
 笑われるとは思わず、カカシはゆっくり腕を下ろした。
 イルカはお遣いで書類を持って来ただけだった。僅かとは言え、書類の山が高くなる。イルカはカカシの状況を察したようで苦笑していた。
「忙しそうですね」
「まあ……」
 カカシは苦笑いで答えた。流石にイルカ相手に愚痴る訳にもいかない。
「書類ばっかり見てると肩凝りますよね」
 イルカは世間話のついでにそう言った。何か言いたそうな目をカカシに向ける。
「揉みましょうか、肩」
「えっ。いいですよ。悪いし」
「そんなこと気にしないでください。俺、三代目の時も肩もみしてたんですよ」
 イルカが笑いながら言った。カカシの返答を待たずに、書斎机を回り込んでカカシの座る椅子の傍にやって来る。
 カカシは頑なに断るのも変な空気になると思い、イルカの好意に甘えることにした。実際肩は痛いので、揉んでもらえるならありがたい。
「じゃあ……お願いします」
 カカシは少し尻をずらして座り直すと、背もたれを避けてイルカの方へ背中を向けた。
「ベストは脱いでください」
 カカシは言われるまま墨色の防護ベストを脱いだ。イルカがカカシの肩に両手を乗せる。
(えっ……⁉︎)
 カカシは吃驚して一瞬固まった。
 イルカの手が驚くほど温かかったのだ。熱いくらいだった。ぽかぽかしている。その手が、カカシの首の付け根を温め、肩の上を腕の方へと移動しながら揉んでいった。
 温かさだけでも心地いいのに、適度な強さで揉まれると更に気持ちよかった。つい、気が抜けてうとうとしそうになる。
 肩の力を抜くと、イルカが一層丁寧に揉んでくれた。
「うーん。そんなに凝ってないですよ。どこが痛いですか?」
「……」
「カカシさん?」
 イルカが声を掛ける。心地よくてすっかりぼうっとしていたカカシは、頭の側で名前を呼ばれてハッとなった。
「ごめん。ぼーっとしてた」
 カカシはこの辺、と言いながら首の右側から鎖骨の先辺りを撫でた。イルカの手がそこに触れる。
「イルカ先生の手、すごく温かいですね。気持ちいい」
「えっ? はは……そうですか?」
 イルカが照れくさそうに答える。
 カカシは無言で自分の肩越しに手を差し出した。イルカがその手を軽く握る。直に触れるイルカの手は熱くて、やさしい男の手だった。父親がこんな手をしていたような気がする。
 カカシは、イルカの手に比べれば体温の低い自分の手が少し恥ずかしかった。出来ればイルカのような手がよかった。
「カカシさんは手が冷たいですね。冷え性ですか?」
 イルカがカカシの手の平を握りながら言った。
「そうなんです。冬とか、もう嫌がられるくらい冷たくて」
「手が冷たい人は心があたたかいんですよ」
 カカシは驚いた。いつだか、カカシのことを好きだった子が同じことを言ってくれた。カカシは不思議な気持ちになって笑った。
「ふふ。子どもの頃にも同じこと言われました」
 でも、それなら、こんなに手の温かいイルカの心はどれほど熱いのだろうとカカシは思った。触ってみたいとさえ……。
「イルカ先生、火影付きにならない?」
 カカシは腰を捻って振り返り、背後に立っていたイルカを見上げた。逃げられないように手をしっかり握る。
「えっ……」
 イルカは吃驚した後に、何故か呆れたような顔をした。
「肩もみの為に職権濫用しないでください」
 イルカが溜め息混じりに言った。カカシは少しショックだったが、切り返しは早かった。
「ええ〜。ダメかあ……」
(別に肩もみの為だけじゃなかったんだけどな)
 カカシが握っていた手の指を緩めると、イルカの手が離れていった。
 カカシは残念に思ったが、イルカの手は再びカカシの肩に乗った。どきどきしてしまうほどの、熱を持った手のひら。
 その手でもっと触れて欲しいと思った。
「わざわざ火影付きにしなくたって、肩もみならいつでもしますよ」
 イルカが愛想よく言った。
 社交辞令だろうか。言うほど親しいわけでもないから、きっとそうだろう。カカシは少し寂しく思った。
「じゃあ、またお願いしますね」
 カカシはそう答えて、もう少しだけ肩を揉んでもらった。

*
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