n - caramelizing
日記です。
読み捨てて頂ければ幸い。
SS
2020.11.15 (Sun) 23:46 | Category : 小話
前に書いた名もなき短編の続きを書きました。でも諸事情により続きじゃなくて始めから出します。
*
*
「イルカ先生。今日行ってもいい? 朝まで一緒にいたい」
カカシにそう言われ、イルカは少し驚いて「えっ?」と小さな声をこぼした。カカシにそんなふうに誘われたのは初めてだった。
カカシはいつも好きな時に押し掛けて来て、好きにイルカを抱いて泊まってゆく。イルカも別に拒まなかった。いちいち聞かれた事なんて無い。
イルカも忍者の端くれ、相手の様子でなんとなく察した。きっとカカシは明日それなりの任務へ行く。でも、危険な任務なんですか、とは訊けなかった。
「……明日、早いんですか?」
「んー。うん。先に出る」
何時とはカカシは言わなかった。やっぱり任務なんだろう。イルカはそれ以上は何も訊かずに、いいですよ、と答えた。
カカシがマスクの下でほっとしたような表情をした——ように思えた。実際にはマスクで隠れて見えなかった。でも、そんな気がしたのだ。
その日はイルカの家でカカシと夕食を摂った。特別なものは作らなかった。変わり映えのしないいつものメニュー。カカシも何度か食べたことがある。不味くはないと思うが、カカシは出されたものを黙って全部食べていた。
片付けはカカシも手伝ってくれて、そのあと少しゆっくりしてから風呂に入り、普段より少し早い時間にベッドに入った。
したことと言えばいつもと同じだったが、カカシはいつもよりやさしかったように思う。イルカも、この行為がいつもより特別に思えた。
いつもよりずっと時間をかけて、焦れったくなるほどゆっくり、いつまでも抱き合った。二人だけの行為に時間をかけるだけ、睡眠時間が減ってゆく。でもカカシは気にしていないようだったし、イルカも何も言わなかった。カカシといつまでも体を繋げていたかった。
*
「帰って来たら、またウチに来てくれますか?」
愛おしく、罪悪感の残る行為の後で、イルカがそう口にした。カカシは驚いて、ほんの一瞬息を呑んだ。そんなことを言われたのは初めてだった。
イルカとは、出会ってからほどなくして今の関係になった。イルカを酔わせて関係を持ち、それからずっと続いている。多分イルカはイルカで、カカシが酔っ払って手を出したと思っている。
イルカは最初の時から今まで、一度も厭とは言わなかった。カカシは拒まれないことを良いように解釈して、以来ずっとイルカの家に入り浸っていた。
好きだとは言ってないし、イルカがどういうつもりかも聞いたことはない。イルカから誘われたことは一度だってない。どうしたい、どうしてほしいと言われたこともない。いつもカカシが勝手に同意を取り付けたつもりになってイルカと一晩を過ごしていた。
だから、また来てほしいと言われた時は嬉しかった。今し方の気持ちよくて空しいだけの行為が、とても素敵で幸せなものに思えた。カカシは、もちろん必ずと約束をして、イルカと肌を寄せ合って眠りについた。
でも、たった数時間寝て起きたら、その前の約束は夢だったんじゃないかと思えた。それでもイルカを抱いた記憶は確かにある。満たされたあの胸の感じも覚えている。全部、何もかも、夢だったんだろうか。
カカシは枕に頬をつけて眠っているイルカの寝顔を暫く眺めてから、何故か切なくなって逃げるようにベッドを抜け出した。そっと起きたつもりだったが、すぐ隣で寝ていたイルカが気づいて身動ぎした。
「……カカシさん? もう行くんですか?」
イルカが寝起きの声で訊ねる。こんな声、自分しか聞けないのだと思うと無性に愛おしかった。イルカはのそのそと体を起こした。
「起こしてごめん。準備したら勝手に行くから」
「時間あるなら何か作りましょうか?」
「いや……」
食べている時間は無い。カカシは断り掛けて、すぐに思い直した。
「ご飯残ってたらおにぎり作ってくれる?」
「はい」
イルカは快く返事をすると、すぐにベッドを出て台所へ向かった。
カカシが着替えを済ませて少ない荷物を再度確認している間に、イルカは台所から戻って来て弁当の包みを手渡した。
「どうぞ」
「……ありがとう」
イルカは一瞬むず痒そうな表情を見せた。イルカとこんなやり取りをしたのは初めてだった。
カカシが荷物を持って玄関へ向かうと、イルカも後をついて来て見送ってくれた。
「お気をつけて」
「……」
あの約束について、カカシはもう一度確認したかったが言い出せないでいた。イルカも何も言ってくれない。やっぱり夢だったのだろうか。
「じゃあ」
カカシがそれだけ言って行こうとすると、イルカは裸足のまま玄関の土間に下りて、カカシの手を掴んだ。距離を詰めたイルカがカカシに顔を寄せる。
マスク越しに唇が触れた。
「いってらっしゃい。カカシさん」
待ってますね、とイルカは小さな声で呟いて、カカシを玄関から押し出した。
「いってきます……」
ぼんやりしていたカカシがやっとそう口にした時には、イルカの家の玄関扉が閉まるところだった。でも、扉が閉まる前のイルカの顔ははっきりと見えていた。照れくさそうな顔をしていた。
カカシは今すぐ玄関の扉を開けてイルカを抱きしめたかったが、腕時計を確認してすぐに任務へ出発した。
(帰って来たら、好きだって言おう)
イルカはイルカの家から離れながら、任務が終わった時のことを考えていた。
**
任務を終えたカカシは、任務直後特有の高揚感を抱えたまま里へ戻った。変に浮き足立った足取りで、まっすぐイルカの家へ向かう。
里を離れていたのはほんの数日だったが、イルカに会いたくて仕方なかった。
早く会って、今まで黙っていた胸の内をイルカに伝えたかった。
任務に行く前から決めていたことだ。
イルカに好きと言って、抱きしめて、キスしよう。イルカは、なんと答えてくれるだろうか——
カカシは、そう考えて急に固まった。
イルカは、なんて答えるだろう。
好きだって、言ってくれるだろうか。
今まで一度も伝えたことのない、身勝手なこの想いに応えてくれるだろうか。
カカシは不安になった。自信がない。
イルカとは関係を持ってから何度も体を重ねたけど、どう思っているかなんて一度も言ったことがなかった。
イルカの口からも聞いたことがない。
互いの体はよく知っているのに。
イルカの気持ちなんてひとつも知らない。
カカシは情けなくなった。一体自分は今まで何をしていたのだろう。イルカと、あんなに近い距離に居たのに。
でも、待ってると言ってくれた。いってらっしゃい、って。また来て、って。イルカは言ってくれた。
だから、少しは期待してもいいのだろうか。
里に帰って来た足でまっすぐイルカの家へ行って、抱きしめてもいいのだろうか。会いたかったって言っても許される?
カカシは、イルカの家の前まで来たものの、怖気づいて立ち竦んだ。
いつまでも部屋の呼び鈴を押せないでいると、アパートの共用廊下を誰かが歩いて来てカカシに声を掛けた。
「カカシさん?」
カカシはのろのろと顔を向けた。買い物袋を提げたイルカが、少し驚いた様子で立っていた。
「おかえりなさい。……来てくれたんですね」
イルカがどこか照れくさそうに言う。
カカシはそんなイルカの顔を見て堪らなくなり、無言でイルカに向かって行って抱きしめた。
「ただいま、イルカ先生」
イルカはいきなり抱きつかれて驚いていたが、やがてカカシの体に腕を回してやさしく抱きしめ、更にやさしくカカシの髪を撫でた。
「おかえりなさい、カカシさん」
イルカがカカシの耳元で言う。数日ぶりに聞くイルカの声はやさしくて、カカシは安心感を覚えると同時に少しどきどきした。
(そうだ……キスしなきゃ)
カカシはイルカに伝えるべきことをすっ飛ばして、イルカの顔に頬をすり寄せた。マスクをしたままの口元が、イルカの唇をかすめる。
「カカシさ……」
イルカは口を押しつけられて、くすぐったそうに笑った。
「ここじゃアレなので、中へ……」
イルカは誰か人が来る前に、カカシを部屋へと招き入れた。いつも来ている、イルカの部屋。イルカの匂いがする。
「カカシさん、何か食べます? それとも先に……」
イルカが部屋に上がりながら訊ねる。
カカシはさっきの続きがしたくてイルカの背後に近づいたが、手を出す前にイルカが急に振り向いた。
「どうします? お腹空いてるでしょう?」
イルカが機嫌良く訊ねる。イルカは牽制したつもりも無いだろうが、カカシはイルカの表情に見惚れて一瞬出遅れた。
カカシは出し損ねた手の遣り場に困って、思い出したように腰のポーチから畳んだ風呂敷を取り出した。イルカがおにぎりを包んでくれた布だった。
「これ、ありがとう。ごちそうさまでした」
「ああ、お弁当の。どういたしまして」
弁当包み用の風呂敷は畳んであったが、布の四隅に向けて結びじわができていた。
「……ごめん、洗って返します」
カカシがそう言って手を引っ込めようとしたのを、イルカがカカシの手を掴んで止めた。
「いいですよ、そんなの」
イルカは急におかしそうに笑った。
「ふふ。任務から戻ってそのままウチに来てくれたんですね」
うれしいです、とイルカは言った。照れたような表情になる。
カカシは思わずイルカの鼻先に顔を近づけて、自分のマスクを引き下げ、今度こそイルカの唇にキスをした。やさしく唇を押しつける。おだやかで、やわらかくて、少ししつこいキスが続いた。
「ふ……はあ……。カカシさん……」
「イルカ先生……。好きです……今まで言わなかったけど」
カカシは顔を寄せたまま囁いた。イルカは、何も答えなかった。カカシはそれが答えなんだと思って、自分でも意外に思うほど落ち込んだ。でも、なんとなくわかっていたことだ。きっとイルカは応えてくれないって。
カカシはこれが最後だと思って、もう一度だけイルカにキスをした。もう、イルカに会うのはやめよう。このキスが終わったら、さよならって言おう……
カカシはそう思いながら、未練がましくキスを続けた。イルカは嫌がりもせずに黙っている。カカシがいい加減に終わりにしようと僅かに顎を引くと、イルカが引き止めるようにカカシの唇をあまく吸った。
カカシが驚いている間に、イルカは触れ合わせた唇を何度か吸っていった。
「……」
「……俺も、あなたが好きです……カカシさん」
イルカが、触れ合うほど近くで囁いた。
カカシは驚いて、嬉しさよりも先に戸惑った。自分の耳を疑うほどだった。
「え……。だって、そんなこと一度も……」
「言ったらもう来てくれないかと思って」
イルカは申し訳なさそうに苦笑した。それから、俺だって初めて聞きましたけど、と然も恨めしそうにカカシを見つめた。
「それは、その……」
カカシはつい口ごもった。言い訳はできない。
イルカはカカシの情けない態度を見て表情を緩めた。
「ごめんなさい。言わなかったのは、お互い様ですね。その……うれしいです。夢じゃないですよね」
イルカは頬を赤らめてそう言ってから、とても申し訳なさそうに続けた。
「できれば、もう一度言ってもらえるとうれしいです」
イルカの目が、カカシに向けられる。
カカシは唇を僅かに動かして息を吸った。でも何も言わずに、言おうとした言葉を飲み込んでイルカを抱きしめた。
「これからも、ここに来ていい?」
「はい。もちろん、いつでもどうぞ」
イルカはくすぐったそうに答えた。それから、カカシの背中に腕を回して抱きしめてくれる。なんだかカカシもくすぐったくなって、ふと息を吐いて笑った。
「イルカ先生……」
すぐ側で、イルカが静かに息を飲んだ。その口元に、カカシは自分の唇を近づける。
カカシは息を潜めてイルカとの距離を一層詰めると、とびきりあまい声で、好きです、と囁いた。
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