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n - caramelizing

日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

夜のナックルシティで

2021.01.27 (Wed) 21:25 Category : 小話

元チャンピオンとトップジムリーダーの話。CP要素はほぼ無いです。今のところ。

*

 会合を終えて石造りの建物を出ると、すっかり暗くなった夜のナックルシティは静かだった。真っ黒く影になった城壁の向こうに星が瞬いている。道端の街灯が通りを所々照らしているが、道の先は暗闇に沈んでいた。
 暗い通りを見て、まずいなとダンデは思った。明るいうちに見た町並みとは様変わりしていて早速道が分からない。
 同じ会合に参加していた人たちが元チャンピオンのダンデに声を掛けて去ってゆく。駅かホテルへ行くのだろう。ダンデは愛想よく挨拶だけして、彼らとは別の方向へ歩き出した。今日はもう疲れてこれ以上愛想笑いをしたくなかったのだ。
 ダンデは道なりに歩いた。少し足が重い。
 ふとキバナに電話しようかとも思ったが、この時間だしと思ってスマホには手を伸ばさなかった。彼の世話にならなくても街から出るくらいどうってことは無いだろう。ナックルシティは城壁を目指せば外へ出られるはずだし、これ以上迷子になりようが無い。
(それにしても……)
 ダンデは思わず溜め息をつきかけたが、それを嫌って深呼吸に変えた。誰も見てないとは分かっていても溜め息はつきたくない。
 街の外へ出たらタクシーを呼んで、シュートシティへ戻って、自分の部屋でぐっすり寝よう。でもその前にリザードンたちを一度ボールから出してやりたいな……ダンデは静かな街を歩きながらぼんやりと考えた。
 ところが考えごとをしていたせいで、気づくと自分が歩いて来た道が分からなくなっていた。立ち止まってしまうと、どちらへ行くべきかも分からなくなってしまう。
(まいったな……)
 結局右も左も分からなくなってしまった。ダンデは暗い夜道に目を凝らして、多分こっちだろうと思ってまた歩き出した。
 見覚えのある公園の前を通りがかると、小さなバトルコートが目に入った。街灯に照らされてバトルコートの白線が浮かび上がっている。それをじっと見ていると、胸の奥底に何かがふつふつと湧き上がってくる。そしてそれはすぐに溢れた。
 ダンデは顔を上げると、しっかりとした足取りでバトルコートへと向かった。手持ちのボール全てからポケモンを放つ。
 ボールの中で半分寝ていたと思しき彼らは、突然呼び出されて不思議そうな顔をしていたが「バトルをしよう」と言ったダンデの声を聞いた途端に各々目を輝かせた。
「とは言っても、相手は居ないから三対三の模擬戦だ」
 ダンデは手持ちのポケモンを二チームに分けて、バトルコートの真ん中に向かい合わせた。
「いくぞ! 試合始め!」
 各チーム先鋒の一匹を残して、他のポケモンがバトルコート中央から飛び退いた。すぐさま第一戦が始まる。スタジアムのコートに比べたら遥かに小さなバトルコートで、それでもダンデのポケモンたちは自在に動き回った。
「いいぞ! そこだ、つばめがえし!」
「よく耐えた! いけ、反撃だ!」
 ダンデは一人遊びをする子供のように、目の前で繰り広げられるバトルを見ながらはしゃいだ。
 すると、暗い公園に突然ライトが向けられた。懐中電灯のようで、ライトはダンデの顔を照らした。光源の向こうから怒号が飛んでくる。
「おい! そこで何をしている! この時間のバトルコート使用は禁止だぞ!」
 ライトを向けている人物は見えなかったが、警察だと思ったダンデは少し慌てた。
「うわっ! す、すまない! つい夢中に……」
 ダンデがすぐさまポケモンをボールに戻すと、ライトが揺れてくつくつ笑う声が聞こえて来た。知っている笑い声だった。
 ダンデの顔を照らしていたライトの向きが変わり光も弱まると、通りの向こうに立つ街灯の明かりで相手の姿が見て取れた。
 そこに居たのはナックルシティのジムリーダーを務めるキバナだった。向けられていたライトはスマホロトムのものだったらしい。ロトムの目がピカピカ光っている。
「キバナ!」
「何してんだ? ナックルシティでは夜九時以降の屋外バトルは禁止だぜ。城壁に音が跳ね返ってうるさいんだ」
 キバナがダンデの前まで来てそう言った。
 故郷のハロンタウンならともかく、市街地にあるバトルコートは細かい時間の違いはあれ、どこも夜間使用禁止だった。シュートシティは特にうるさいが、子供の頃以来野外試合などほとんどしたことの無いダンデは知らなかった。
「そ、そうなのか。確かに近隣迷惑だな」
 楽しかったひと時は一瞬のうちに終わってしまい、ダンデは少し気落ちした。バトルはまだまだこれからだったのに。
「今日はお偉いさんたちと会合じゃなかったのか?」
 キバナが訊ねた。
 チャンピオンを引退してからというもの、ダンデはローズ委員長の後を引き継くべく奔走していた。協議、会議、会合、会食、他にも接待や根回しなどなど……チャンピオン時代には無かったものに振り回されている。
「ああ。終わって帰るところだったんだが……ここを通りかかったら、なんていうか……」
「バトルがしたくなった?」
「そう! そうなんだ! バトルコートを見たら急に堪らなくなってしまって!」
 ダンデは自分の気持ちを言い当てられて、驚きと嬉しさからキバナに詰め寄った。この気持ちを解ってくれる者がいた。それが嬉しかった。
 ところがキバナは静かにダンデを見つめていた。気の所為かそれが寂しそうな顔に見えて、ダンデは一瞬戸惑いを覚えた。
「慣れないことして疲れてるんじゃないか?」
「えっ? ああ……はは、そうかもな」
 確かに引退してからこっち、慣れないことばかりしている。現役の頃にもスポンサーとの付き合いなどはあったが、基本的にはバトルのことだけ考えていればよかった。今は違う。
「でも別に嫌だとは思っていない。確かに慣れないことばかりだが、これからのことを考えると楽しいんだ。ガラルリーグはもっと素晴らしくなる! もっと面白くなる! 君たちトレーナーも! ファンも! そしてポケモンもだ!」
 ダンデは自分の頭の中にあるもの、胸の内にあるものをキバナに語って聞かせたくなった。今は自分の中にしかない理想。でもいつか絶対に実現する夢。早く、ガラルのみんなに見せてやりたい。
 キバナはダンデの気迫に気圧されたのか呆れたのか、力の抜けた笑い声を出した。
「はは……なんか安心した。元気ないのかと思ってたからさ」
 それを聞いたダンデは目を丸くした。
「オレがか? まさか! オレはいつでもチャンピオンタイムだぜ!」
 ダンデが真面目な顔で言うと、キバナはなんだそれと言って笑った。
「そうだな。要らん心配だったわ。つまり元チャンピオン様は、単にストレスが溜まってるだけってわけだ」
 キバナは腕を組んで品定めでもするようにダンデを眺めた。
「まあそうだよな。おまえのバトルでのあのエネルギーは他で発散しようが無いもんな」
 そりゃストレスも溜まるわ、とキバナは呆れた顔を見せた。
「……わかった。じゃあ行こうぜ」
「行くって?」
「ジムだよ。オレさまが相手してやるよ」
 ダンデは一瞬きょとんとしたが、すぐに食いついた。思わずキバナの腕を掴む。
「相手って、バトルしてくれるのか! キミが!」
「不満か?」
「まさか! こんなに嬉しいことはない! 地下の練習場か? あそこなら防音だし設備も……」
 大抵のジムは練習用のバトルコートを持っていた。ナックルジムの練習場はスタジアムの地下にあって設備も申し分ない。
 しかしキバナはダンデの言葉を遮った。
「ジョーダンだろ。我らがチャンピオンをあんなシケたとこに通すかよ」
 そう言ってキバナが向かったのは、ナックルシティが誇るドラゴンジムのホームグラウンド、最大一万人を収容する古城のナックルスタジアムだった。
 観客の居ないスタジアムは、恐ろしく静かだった。試合では眩しいほど浴びる照明も、今は半分も点いていない。
 でも静まり返ったバトルコートは、凛としていてとても神聖に思えた。
「ここで……バトルを……」
 ダンデがスタジアムの広いバトルコートに立ったのはひと月ぶりだった。体が試合の熱を思い出す。
「観客が居ないのが残念だけどな」
「……いや。感謝する。なんて贅沢だ……ここでキミと戦えるなんて」
 ダンデはバトルコートを見渡し、誰もいない客席を眺め、スタジアムの空を見上げた。胸が高鳴る。
 大袈裟なやつだなとキバナは笑ったが、満更でもなさそうだった。
「バトルは手持ち三体のシングルだ……おい、聞いてるか?」
「ああ! 楽しみだ! 早く始めよう!」
 既にバトルのことで頭がいっぱいだったダンデには、キバナの声などろくに聞こえていなかった。自分の鼓動の音だけがうるさく聞こえてる。
 キバナはのしのしと歩いて来て目の前に立つと、両手でダンデの頭を掴んで顔を近づけた。キバナが大声で話しかける。
「ルールの確認だ! 復唱しろ! 手持ち三体のシングルバトル! ダイマックスなし!」
 キバナの声が頭に響く。ダンデは聞こえた言葉をそのまま繰り返した。自分の口で言葉を繰り返してからようやく意味を理解する。
「手持ち三体、シングル、ダイマックスなし!」
 更にキバナは付け加えた。
「非公式の試合だが、手抜きなしの真剣勝負だ!」
「……ああ! もちろんだ!」
 ダンデは目と鼻の先にあるキバナの顔を睨むように見つめた。いつもバトルの度に見ていたあの目を、至近距離で確認する。戦意むき出しの熱いこの目が、いつでも最高のバトルを約束してくれる。
「ルールはオーケーだな?」
「ああ、オーケーだ」
「よし! 始めよう」
 キバナは手を放すと、ダンデに背中を向けてバトルコート中央から下がった。センターサークルを出た所でダンデに向き直る。手持ちの中から選んだボールを三つ、手に持っていた。
 ダンデもコート中央から下がり、離れて立つキバナと向かい合った。試合のチームはもう決めている。
 ダンデはボールを持つ前に、いつものルーティンを行なった。肩を回し、上半身を動かして緊張をとく。大きく息を吸い、両頬を叩いて気合を入れる。
 自然と力が湧いてくる。体が熱くなる。高揚感がぞくぞくとした期待に変わる。こんなに胸も体も熱いのに、頭は冴えて勝負のことを考えている。試合開始の合図が待ち切れない。
「キバナ!」
 ダンデは声を張り上げた。静かで張りつめたスタジアムの空気に音が吸い込まれる。
「ここにはオレたち二人しかいないが……今までのオレたちの公式戦にも負けない最ッ高の時間にしよう!」
「ハッ! 観客が居ないから負けたとか言うんじゃねーぞ!」
 キバナが歯を見せて吠える。バトルコートに、広いスタジアムに、二人の気迫が満ちてゆく。
 まだこれからだと言うのに、ダンデは楽しくて仕方なかった。
「いくぜ!」
 二人はそれぞれボールを構えると「試合開始!」と声を揃えた。

*

この後もう一ネタあるんですけど、まあ…そのうち…
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