n - caramelizing
日記です。
読み捨てて頂ければ幸い。
寒い日には一楽のラーメン
2022.05.08 (Sun) 23:16 | Category : 小話
寒かった2月くらいに考えました。(もう5月ですが!?!?)
割と半端です。寝付けない夜に一楽へ行くイルカ先生と、付け込み気味のカカシ先生の話
割と半端です。寝付けない夜に一楽へ行くイルカ先生と、付け込み気味のカカシ先生の話
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火影に報告を終えたカカシは、建物を出てから余りの寒さに首を縮めた。頭上に広がる深い濃紺の夜空は雲も無く澄み渡っていて、静かに星が瞬いている。
「さむ……」
日付が変わる前に帰って来られて良かったと思っていたが、この時期の木ノ葉隠れの里は周辺の地形の所為もあり一段と寒かった。口元を覆うマスクを引っ張って緩めると、吐息が真っ白になって霧散した。
寒さや暑さは任務中なら我慢は出来たが、里に戻って気が緩んでしまうと任務中ほどは耐えられなかった。特に寒いのは嫌だ。体が強張るし、何故か物寂しくなる。
カカシは両手をズボンのポケットに入れて、暗い通りを歩き出した。肌を刺すような冷たい空気が、いつまでも付いてくる。早く家に帰って、何か食べ物を腹に入れて、寝慣れたベッドで休みたかった。
本当はどこかで食べて帰りたいところだが、今から行くのも億劫で、カカシはとぼとぼと家路を進んだ。
大通りが近くなると暗い夜道の先にやわらかな明かりが見えた。冷たい空気の中を、少し癖のある匂いが漂ってくる。それは空きっ腹には堪える匂いだった。ラーメン屋・一楽のスープの匂いだ。
カカシの足は、行く手に見えていた明かりへと自然に向かった。
一楽は屋台のような造りの小さな店舗で、カウンターには四席しか席が無い。人が多い昼間は店先にテーブルが出されるが、今はすっかり片付けられていた。もしかしたら、もう店じまいなのかも知れない。
年季の入った一楽の暖簾の向こうには、木ノ葉のグリーンベストを着た男が一人座っていた。背中を向けている上に頭は暖簾で隠れて見えなかった。
知り合いだったら面倒くさいなとカカシは思ったが、この状況で一楽のラーメンの誘惑には勝てなかった。
カカシは店表へと近づき、暖簾を腕で避けつつ頭を入れた。
「まだ平気?」
店の中に居た頑固そうな顔をした店主が顔を向ける。
「おー、カカシ先生。いらっしゃい。いいよ。先生、運が良いねえ。もう閉めようと思ってたんだよ」
もう店じまいだと言われると思っていたので、カカシは内心ほっとした。その横で、カウンター席に座っていた男が持っていた箸を置いてこちらへ視線を向ける。男の頭の後ろで結んである髪がひょこっと揺れて、カカシの目を引いた。
「カカシ先生、こんばんは」
一人だけ居た客はイルカだった。こんな時間に会うとは思っていなかったのでカカシは少し驚いた。もう日付が変わる頃だ。
「イルカ先生。こんな時間に……夜勤?」
「いえ。小腹が空いて……」
イルカが照れくさそうに答える。彼の前に置かれているラーメンの丼は、ほとんどスープしか残っていなかった。
カカシはラーメンを注文をして、イルカの隣の席に座った。
客席は屋根があるだけだが、厨房の熱気で少し温かかった。ほっとひと息つく。
「カカシ先生は任務帰りですか? お疲れさまです」
カカシが冷えている両手を合わせて擦っているとイルカが訊ねた。
「ええ。さっき帰って来たとこで……今日すごく冷えますね? まさかこんなに寒いとは思わなかった」
「ここ数日、夜はこんな感じですよ。その前まで暖かかったから帰って来て驚いたでしょう?」
イルカはそう言って徐に手を伸ばして来て、無造作にカカシの手を掴んだ。
すっかり気を抜いていたカカシは、思わずぎょっとした。
「うわ! カカシ先生、手冷たいですね!」
そう言ったイルカの手は驚くほど温かかった。イルカの手がカカシの冷え切った指先を包む。
この人はこういう距離感で人と接するのか、とカカシはイルカの体温を感じながら思った。こういう距離感で接していいのか、と。
「あっ、すみません!」
カカシが無反応でいるとイルカはパッと手を放した。
カカシは即座にイルカの手を掴んで引き寄せていた。もう片方の手でイルカの項に触れる。温かいと感じたイルカの手より、更に熱い。カカシはイルカの首筋に触れた手を肩に回して、上腕を掴んで自分の方へ抱き寄せた。ベスト自体は外気で冷え切っていたが、掴んでいる腕は温かかった。体を近づけているだけで体温を感じる。
「えっ!? わっ、あのっ、カカシ先生!?」
「イルカ先生、めちゃくちゃあったかいね。俺、体温高いひと無条件で好き」
カカシがそう言うと、イルカは真っ赤になって反応に困っていた。でも、嫌がったりはしなかった。
「できたよ、カカシ先生。早くこれ食ってあったまりな」
客席で大の男二人がじゃれついていると、一楽の店主が呆れながらラーメンを出してくれた。ラーメンの丼にはたっぷりと野菜が盛りつけられていて、ほわほわと白い湯気が立っている。
カカシは少し残念に思いながらイルカから離れて椅子に座り直した。出来立てのラーメンに向かい、いただきますと手を合わせてから箸を付ける。
体が冷え切っていたカカシには作り立てのラーメンは熱すぎるくらいだったが、一楽の濃いめの味が体を腹の内から温めてくれて、カカシは任務から戻って来てようやく人心地ついた気がした。
「は~。うま……あったまる……。涙出そう」
カカシはラーメンを半分くらい一気に食べて一息ついた。すると隣でイルカがふと笑ったようだった。
「任務終わって食う一楽のラーメンって、すっごい美味しいんですよね。俺ガチ泣きしたことあります」
「ガチ泣きって」
「え、カカシ先生ありません? 里帰って来て飯食ったら安心しちゃって、そんなに大した任務じゃなかったんですけどボロ泣きしたんですよねぇ」
イルカが笑いながら懐かしそうに言った。流石にカカシにその経験は無かった。幼い頃から任務には出ていたし、その辺の感覚はきっと麻痺していたのだろう。
「気持ちはわかりますけど……ボロ泣きは無いです」
「ははは。まあ、子供の頃の話なんで。俺が泣きだしたら他のやつらも泣いちゃって。当時の上官、すごい困ってましたよ」
「でしょうね……」
カカシが返事に困った顔で答えると、イルカは可笑しそうに笑っていた。当時の上官にもそんな顔をされたらしい。
それからイルカは最近身の回りで起こったことを話してくれた。いつも話題にするナルトたちのことは少しも聞かれなくて、カカシは少し意外に思った。とは言え、ナルトたちの近況については二週間前に会った時に話しているので、聞かれたところで新しく話すことも無いのだが。
イルカはカカシがラーメンを食べ終わるまで一頻り話すと、もうこんな時間だと時計を見て、丼に残っていたスープを飲み干した。手早く勘定を済ませて席を立つ。
「カカシ先生。すみません、お先に失礼します」
イルカはおやすみなさいと挨拶した。
「ああ、はい。おやすみなさい」
「テウチさん、ごちそうさまでした。また明日」
イルカは店主に向かってそう挨拶して去って行った。明日も来るつもりなのか、とカカシは思ったが口にはしなかった。
昼間に第七班を連れて一楽へ来るとたまにイルカに出くわすが、イルカもナルト同様、一楽のラーメンが相当好きらしい。というか、多分イルカの影響でナルトは一楽のラーメンに嵌まったのだろう。
「テウチさん。あの人、この時間によく来るんですか? 昼間にもここで会うけど……」
「イルカ先生? あー、たまに来るねえ。子供のころから夜中にふらっと来てたよ。そうそう、寂しそうな顔してさあラーメン食べに来るんだよ……両親亡くしてるから人恋しかったんだろうね」
「へえ」
イルカの生い立ちは知らなかったが、多分寂しがりだろうなとは思った。指先に感じたイルカの手の温もりを思い出す。カカシはあんなふうに他人に触られるのは好きじゃなかったが、イルカになら嫌悪感は無かった。むしろもう少し触れていて欲しかったとさえ思う。
今から追えば間に合うだろうか。イルカの家は知らないが、いざとなれば忍犬を使えばすぐに見つかる。
カカシはイルカの真似をしてスープを飲み切ると、席を立って財布を取り出した。
「テウチさん、ごちそうさま。こんな時間に居座っちゃってすみません」
「いーよ、そんなの。またいつでも来な」
また明日とは言えなかったが、またうちの班連れて来ますと答えてカカシは一楽を後にした。
一楽を出たカカシはすぐにイルカを追った。とりあえずイルカが去ったと思しき方へ勘で向かうと、忍犬を使うまでもなくイルカに追いついた。
「イルカ先生」
「カカシ先生? どうしたんですか? あ、もしかして俺、なにか忘れ物を?」
イルカが慌てて自分の服のポケットを確かめる。カカシはそうじゃないと伝えてイルカを落ち着かせた。
「まだちょっと話したくて。よかったら今から一杯どうですか?」
「行きたいのはやまやまですが……カカシ先生、任務から戻ったばかりでしょう? 早く帰ってゆっくり休んだ方がいいです」
「うん……でも多分寝付けないから」
カカシが少し落ち込んだ顔をしてみせると、イルカは少し困った表情をしたが、やさしく微笑んだ。
「じゃあ、途中まで一緒に帰りましょう」
イルカはカカシを促して歩き出した。カカシはイルカの隣を少しゆっくり歩いた。聞いたところイルカの家はこの近くで、カカシの自宅とは離れていた。
「イルカ先生、いつもこんな時間に一楽行ってるんですか? テウチさんから聞きましたよ」
「えっ……はは。テウチさんにはないしょですが、実は寝付けない時に行くんです。子供の頃から眠れない時は一楽に行ってました。お腹がいっぱいになれば眠くなるし……」
「じゃあ今日はもう眠れますね」
「え。いえ……どうでしょう。最近寝付きが悪くて」
イルカは眉尻を下げて笑った。
「イルカ先生。それなら俺が、よく眠れるいい方法を教えてあげましょうか」
カカシは隣を歩くイルカの腰にそっと手を回して体を寄せた。イルカの目元にあからさまな嫌悪が表れる。
「カカシ先生……。そういうの、よくするんですか?」
「まさか。こんなことイルカ先生にしか言わないよ」
カカシは自分で言ってて可笑しくなって、マスクの下で笑った。普段はこんなこと言わないのに、なんでイルカには言っているんだろう。
「俺も寝付き悪い時あるから、イルカ先生の気持ち少しはわかるよ」
イルカは黙り込んでカカシをじっと見つめた。
「……カカシ先生は、俺が相手でいいんですか?」
「うん」
「……うちに来てくれるんですか? ベッド狭いですが」
「いいよ。広いベッドがいいならうちに来る?」
「いえ……俺の家もうすぐそこなので、うちで良ければどうぞ」
イルカが腰に回されたカカシの手に触れる。
カカシはイルカの温かい手を握って、イルカの家へと向かった。
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