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n - caramelizing

日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

スイーツビュッフェに行く話

2022.10.12 (Wed) 23:52 Category : 小話

イルカ先生が紅・ミライ母子とケーキビュッフェに行く話。カカイル前提。
カカシは出て来ません。




 イルカの向かいの席に座っていた小さな女の子がふわふわのケーキを口いっぱいに入れて、ぱあっと表情を輝かせた。口元に白いホイップクリームがくっついている。隣に座っていた紅が世話を焼いて、娘の口をナプキンで拭った。
「おいしい?」
「おーしい!」
 女の子——紅の娘のミライは、小さな手にデザートフォークを握りしめて眩しいほどの笑顔を見せた。
 イルカは幼い子どもの無邪気な笑顔を眺めて、つい表情を緩めた。
「よかったわね。イルカ先生にお礼言うのよ」
「イルカせんせー、ありがとー!」
「どういたしまして」
 イルカは普段相手にしている生徒たちよりずっと幼いミライに先生と呼ばれて、少しこそばゆく思いながらにっこり笑ってみせた。
 イルカは、紅とその娘のミライを誘って期間限定のスイーツビュッフェに来ていた。店内の一角にはきらきら輝くようなスイーツが並べられていて、その前では誰もがうきうきしながらアレもコレもと選んでいる。
 高級ホテル監修のビュッフェで、店舗は連日賑わっていた。家族連れも居るものの、客は女性の方が多く、少ない男性客はみな女性客の付き添いといった感じだった。きっとイルカも他の客からはそう見られていることだろう。
 イルカは六代目火影であるカカシから、このスイーツビュッフェの招待券を貰っていた。甘いものもイケる口のイルカはスイーツビュッフェに興味があったが、流石に男一人で行くのは躊躇われたし、カカシを連れて行く訳にもいかない。そこでイルカは紅とミライを誘ってやって来たのだった。実際やって来て、男だけで来なくて良かったと思った。思っていた以上に女性客が多く、自分一人で来ていたら変に浮いていただろう。カカシと二人では言うまでもない。
「でもよくアイツが許したわね。うるさそうなのに」
「はは……ちょっと機嫌悪かったですけど、ミライちゃんと行くって言ったら渋々納得してました」
「……あぁ、そう」
 カカシをよく知る紅は呆れていた。彼女ら夫婦には昔からいろいろと迷惑を掛けて来たので、カカシとイルカの関係についてもよく知っていた。カカシの独占欲(イルカ限定)についても了解済みだった。
「あの人甘いもの嫌いだから一緒に来てもしょうがないし。それなら二人を誘った方がずっといいじゃないですか」
「確かに。来たら来たでずっと機嫌悪そう」
 二人は甘いものを前にしたカカシの姿を思い浮かべて笑い合った。
「でもカカシさんもミライちゃんに会いたがってましたよ。今度顔見せに行ってあげてください」
「じゃあ今度火影室に顔出すかあ……。ミライー、今度火影様のとこ行く?」
 紅が娘に問いかける。ケーキに夢中になっていたミライは火影様と聞いてきょとんとしていたが、誰のことか分かるとパッと笑った。
「いく~! ほかげさまにも、ケーキあげるの!」
「あっはは、それいいね。お土産にケーキ買って行こうか」
 このあと早速火影室へ行くことになって、ミライはキャッキャッとはしゃいでいた。火影のことが好きらしい。自分がお土産のケーキを選ぶと言って意気込んでいる。イルカと紅は顔を見合わせてから、声を抑えて笑った。困るカカシの顔を見ることになりそうだった。
 三人がおしゃべりをしながら楽しくケーキを食べていると、四人掛けのテーブルの空いた席に、突然小さな子どもがやって来てちょこんと座った。イルカの左隣の席だ。イルカは咄嗟にその子どもがテーブルを間違えて座ったのだと思った。近くのテーブルには家族連れも居たからだ。
「キミ、テーブル間違えてるよ。お父さんとお母さんは……」
 イルカは声を掛けてから、その子どもの顔を見てぎょっとした。その子が銀髪で、鼻と口をマスクで隠した小さな男の子だったからだ。それは写真で見せて貰った少年のカカシによく似ていた。ただ、今目の前に居るのはイルカが写真で見た姿よりも少し幼く見える。
 向かいに座っていた紅も、突然テーブルにやって来た銀髪の少年を見て驚いていた。彼女はカカシと歳も近いし、イルカと違って実際にカカシの子供の頃も知っているはずだ。
「ちょっと。なにしてるの、カカシ」
 紅はこの少年をカカシ本人だと思ったらしい。変化の術を使えば子供の姿になることなど容易い。でも、そうじゃないことにイルカはもう気づいていた。
「キミ、カカシさんの忍犬だな? なにしてるんだ?」
 イルカが少年の顔をじっと見て話し掛けると、少年は黒い目をきらきらさせてイルカを見上げた。ぶんぶん振られる尻尾が見えるようだった。
「イルカの傍に居ろとカカシに言われた」
 銀髪の少年――の姿をした忍犬が言った。
 カカシの忍犬は、カカシの身代わりになれるようよく訓練されていた。変化の術も得意で、ぱっと見では分からないくらい上手にカカシに化ける。ただ、イルカはいつもなんとなく、カカシ本人かそうじゃないかの見分けはついた。
「カカシの忍犬? よく見分けつくわね」
「まあ……いつも一緒に居るのでなんとなくは」
「やだ~。のろけ?」
 紅にからかわれてイルカは咄嗟に赤くなった。
「ち、ちがいますよ! 最近はカカシさんの忍犬とも仲良くしてて……」
 カカシが火影になってから一緒に過ごす時間が以前より減ってしまい、カカシは自分の代わりに忍犬を寄越すようになった。近頃はカカシの忍犬と一緒に居ることの方が多い気がする。
「ああ……なるほど。監視されてるの? イルカもあんなのが相手で大変ね……」
「もう、ちがいますってば」
 イルカが少しむきになって答えると、紅は冗談よと言って笑った。
 その間カカシ少年の姿をした忍犬は大人しく座っていたが、目の前の皿に寄せ集められた様々なケーキやタルトをじっと見つめていた。プリンにジュレ、焼き菓子もある。さっきイルカがこれでもかと取って来た物だった。
 忍犬は食べ物を前にしてよだれを垂らしているようで、マスクの顎のあたりだけ色がほんの少し濃く変わっていた。イルカが手で触るとマスクも襟元もビシャビシャになっている。
 忍犬の彼に人間用のお菓子を食べさせる訳にはいかない。忍犬もそれは分かっているようで手を出そうとはしないが、お菓子を穴があくほど見ているし、よだれは止まらないようだ。
「はあ。こんな所に忍犬寄越して。あの人、鬼か……」
 イルカは溜め息を吐いた。しかもカカシが寄越したのは食いしん坊の忍犬のようだ。あまりにも可哀相だった。
「イルカ先生。あっちにサラダとかフルーツ置いてあったわよ。その子にも食べられるもの、何かあるんじゃない?」
「そうですね。……見に行ってみよう」
 イルカが席を立って忍犬に手を差し出すと、少年姿の忍犬は小さな手でイルカの手を取った。

 *

「ママぁ。ミライも行きたい」
 席を離れるイルカの姿を見ていたミライが、突然そう言った。選ぶときには煩いくらいはしゃいでいたくせに、もう目の前のケーキには興味が無いらしい。小さなケーキだったが、半分くらい残っている。
「ええ? あなた、まだ全部食べてないじゃない。どうするの、これ?」
「ママが食べる」
 ミライはしれっと言い放った。
「もう……しょうがないわね。じゃあ、イルカ先生のとこ行って来なさい。走らないでね。人にぶつからないようにするのよ」
「うん!」
 ミライは椅子から下ろしてもらうと、イルカの後を追って駆けて行った。走るなと言ったのに……紅は溜め息をつきながら小さい娘の姿を目で追った。彼女は人の心配など知らずに元気に走って行き、ひとまず転ばずにイルカの元に到達していた。あとはイルカが面倒を見てくれるだろう。
 紅は娘の食べ残しのケーキを口に運びながら、少し危なっかしいミライの行動を見守った。娘はイルカの脚にくっついて、側に居るカカシ少年のことをチラチラ見ている。どうやら気になっていたらしい。暫くすると彼女はカカシ少年の横に立って、自分から少年と手をつないでいた。
 カカシ少年の姿をした忍犬は、急に手を握られて不思議そうな顔をしていた。でも面倒見がいいのか、別に何を言うでもなくそのままミライと手をつないでくれている。
 てっきり娘はやさしいイルカ先生が好きなのかと思ったが、そうじゃなかったらしい。
「あらあら……そっちか……」
 紅は娘の行動を見ながらひとりで呟いた。ミライはきらきらした目でカカシ少年を見ている。
「ふふ……あの人が見たら拗ねそうだわ」
 家に帰ったらあの人の写真に報告しようと思いながら、紅は甘くて美味しいケーキをもうひとくち、口に運んだ。
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