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日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

山奥の我が家へ(re:

2024.07.17 (Wed) 15:06 Category : 小話

山奥の我が家へ』を少し手直ししました。山田家の話。

ついでに本編から省いた部分が出てきたので置いておきます。
WEB拍手に置いてあるのかと思ったけど無いっぽいので、完全に出しそびれていた物です。
利土井でした。(書いたことを忘れている)

*

 道とも言えない急な山道を登って行くと、漸く人の手が入っていると分かる景色になった。
 土地が切り開かれていて、緩やかな坂の向こうに家屋が見える。
 利吉の横で、半助が少しそわそわしていた。
 利吉の母に会うのが久しぶりで緊張しているのかと思ったら、そうではなかった。
「利吉くん、マタタビ持ってない?」
 半助は家の手前で不安そうに利吉に声を掛けた。
「マタタビですか?」
 猫の好きな植物のことだ。利吉は自分の家の猫を思い出した。
 山田家の玄関には、番犬代わりの獰猛な猫が居た。半助はその猫に襲われはしないかと心配していたらしい。
 あいにく今はマタタビは持っていなかった。
「私が先に入りますから大丈夫ですよ。多分」
 利吉は笑いながら言った。猫を怖がっている半助が少し面白かった。
 半助が山田家に居候していた頃から、その猫は飼われていた。
 今では歳を取ってしまったがそれでもまだ現役で、たまにやって来る客人に元気に飛び掛かっている。
 半助はその猫に何度かこっぴどく引っかかれていた。
 半助がその都度顔に引っ掻き傷を作っていた事を、利吉は思い出した。それを思うと、確かにマタタビが欲しくなるのも分かる。
「あれは気が荒いですが、そんなに馬鹿じゃないので半助さんのことも覚えていると思いますよ」
「そうかなぁ。六年前だよ? 忘れてるよ」
 大体覚えてても忘れてても引っ掛かれるよ、と半助は言った。
 喋っているうちに玄関の前に到着していた。
 利吉は玄関の戸を開ける前に、心配そうにしている半助に向き直った。
「そんなに心配なら、私の匂いでもつけておきます?」
 利吉は半助に詰め寄り、顔を間近に寄せて半助の目を覗き込んだ。驚いて目を瞠った半助の顔が俄かに赤くなる。
「なっ、なに言ってるんだ、利吉くん!」
 半助の慌てぶりを間近で見つめ、利吉は満足してにっこり笑った。
「冗談ですよ」
 利吉は何事も無かったかのように半助から離れた。
 改めて玄関に向き直って戸に手を掛けようとした時、半助が横からその手を掴んだ。
「ごめん……利吉くん。やっぱり心配だから……」
 半助が遠慮がちに言った。
 利吉は半助の腕を掴むと、顔を近づけて唇を合わせた。着物の袖が擦れ合う。
「大丈夫ですよ、半助さん」
 利吉は笑ってみせると、家の玄関の戸を開けた。
 待ち構えていたように猫が飛び掛かって来て、驚いた半助が大げさな声を上げた。

*
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