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日記です。 読み捨てて頂ければ幸い。

イルカ司祭が足にキスしてくれる話

2023.06.18 (Sun) 23:59 Category : 小話

あの…某グッズのイルカ司祭のSSです。
突然始まって終わります。カカイル。
思えば前にもフィギュア出た時に小話書いたよな…



*

 これ以上話しても無駄だと思い、カカシは話を切り上げて踵を返した。静かな聖堂には、二人の他に人は居なかった。長椅子が並べられた礼拝広間の中央を足音を立てて歩いてゆく。
 するとイルカが良く通る声でカカシを呼び止めた。そのまま聖堂を出て行っても良かったが、カカシは通路の途中で立ち止まった。通路の両脇には、聖堂の奥にある祭壇に向かって長椅子が並べられていた。
 イルカは祭壇から真っ直ぐ歩いて来ると、カカシの前で立ち止まった。
「足を出してください」
「は?」
 怪訝な顔を向けるとイルカは目の前で屈んでいきなりカカシの足を掴んで持ち上げた。バランスを崩したカカシは咄嗟に手を出して支えになる物を掴む。手に掴んだのは長椅子の背凭れで、カカシは長椅子の肘掛けに腰を預けた。
 法衣が汚れるのも気にせずカカシの足下に跪いたイルカは、カカシの左足を自分の膝に乗せて勝手に靴を脱がせていった。
 靴下も脱がされ裸足にされる。カカシは急に恥ずかしくなった。
「ちょっと!?」
 イルカはカカシの声には全く取り合わず、服の下から小瓶を取り出し、その中身をカカシの足の甲に振りかけた。それを手の平で撫でて塗りつけ、手拭いで丁寧に拭って、そこに自分の唇をやさしく押しあてた。
 カカシの素足に触れている唇が微かに動いて言葉を紡ぐ。
「汝の征く先に光があらんことを」
「……」
 イルカはカカシの足に額をくっつけたまま暫しの間黙って祈り、それが終わるとようやく顔を上げた。さっきまでカカシと言い争っていたのが嘘のように、イルカの表情は穏やかで慈愛に満ちていた。
 イルカは大事そうに両手に持っていたカカシの足を、一層大事そうにそっと床に下ろした。ひやりとした石の表面が足の裏に触れる。
 カカシはふわふわした左足で床を踏むと、跪いているイルカに手を伸ばして強引に引き寄せた。イルカは引っ張られて立ち上がり、そのまま体勢を崩してカカシの胸に倒れ込んだ。
 爽やかな香油の匂いがする。カカシはイルカの体を抱きしめた。
「わっ……カ、カカシさん?」
「俺にこんなことして、責任取ってくれるんですよね?」
 カカシはイルカの顔を覗き込んで尋ねた。イルカは突然のことに吃驚している。
 でも吃驚したのはカカシの方だった。あんな無遠慮に靴を脱がされて、足の甲にキスをされて。ヒトより多少長く生きているというのに、そんなこと生まれてこの方されたことが無かった。
 あの瞬間、イルカはカカシの特別になった。
「えっ。せ、責任? すみません、ご迷惑でしたか? あなたの旅路を祈りたかったのですが」
 イルカはカカシの肩に手を置いて、カカシの腕の中で少しだけ体を離した。カカシに寄り掛からず自分の足で立っただけで、カカシの腕から逃げようとはしなかった。
 イルカはカカシに真っ直ぐ顔を向ける。
「人の足にキスしておいて、言うことはそれだけ?」
「それだけと言われても……これはいつもしていることですし」
 カカシはあからさまに眉を顰めた。自分だけが特別と思ったのに、そうではないと分かって不機嫌になる。
「俺以外にも同じことしてるの?」
「はい。これが私の役目ですから」
 イルカが自分の胸に手を当てて誇らしげに答える。
「破廉恥……」
「はっ……!? ヘンなこと言わないでください! これは教義に則った立派な――」
 イルカは急に大声を出した。天井の高い聖堂にイルカの声が響く。
 カカシはイルカの言い分を最後まで聞かずに、イルカを抱き寄せて唇にキスをした。その瞬間イルカは黙った。天井の方で残響が鳴っている。
 唇はすぐに離れた。イルカは驚いてぽかんとしている。
「あなたに天地の祝福があらんことを」
「……」
 カカシはイルカの体を押し退けると、脱がされた靴下と靴を拾って履き直した。イルカは傍で黙って見ている。
「……どっちが破廉恥ですか」
 カカシが靴を履き終えて真っ直ぐ立つと、イルカが普段とは異なる弱々しい声でそう言った。見ると顔が赤くなっていて、カカシは思わず笑ってしまいそうになった。
 赤くなっているイルカは、いつもと様子が違って可愛かった。
「これは俺の教義だから」
 カカシはしれっと答えてから、背中を向けて歩き出した。道中お気をつけて、とイルカが言ってくれる。
 カカシは振り向かずにひらひらと手を降って、静かな聖堂を後にした。無事に戻ったらまた此処へ来ようと思っていた。
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